100 Days to Ironman Harada

残り78日 – ハラダは飲んでいた

ハラダは、飲んでいた

もちろんドンペリだ。彼がドンペリを飲むのは決まっている。
ビジネスでカントリーのコミットメントを達成した時か、仕事の接待の席かだ。

ただこの時はそのどれとも違う。 

深夜2時のオーストラリア、ケアンズの相部屋でのことだ。

ハラダは、外資系IT企業の社長。いつも営業スマイルをたやさず、ゴルフ焼けした肌に、長身でガッチリした体格。今どきのイケてる経営者然としている。

先週末はマレーシア、今週は台湾、来週はボストン。社長の一週間は忙しい。

そして毎晩の接待や、飲みだ。

残り76日 – 世界中を転戦する

世界中の大会を転戦する

彼は、そんな忙しい合間をぬって、それでも時間を作っている。

トライアスロンの大会だ。

アイアンマン・レースの前哨戦として、アイアンマンの距離の半分のIronman70.3マイルレース(いわゆるハーフ・アイアンマン)に、世界を飛び回って参加しているのだ。

台湾やシンガポール、マレーシアでハーフ・アイアンマンの実績を積み重ねていっている。

彼がトライアスロンにハマるきっかけは、やはり同業の社長つながりの影響だ。

これまでゴルフ一辺倒だったものが、周りの社長、重役達のうち、イケてる感じの人たちがみなトライアスロンを始めたのだ。

あいつにできて、俺にできない訳がない。

マラソンやっています、と言っても今では誰も驚かないが、トライアスロンやっています、と言うと、スゴいですねえ、お忙しいのに、と尊敬のまなざしで見られる。

という事で、取り敢えず自転車を買うのは早かった。

残り74日 – トライアスロンはお金のかかるスポーツだ

トライアスロンはお金のかかるスポーツだ

まず自転車。
最低10万円くらいのエントリーモデルのロードバイクもあるが、トライアスロン用のタイムトライアル/TTバイクは最低30万円からだ。

そしてそこに、カーボンの材質、ブランド、ギアの種類などを選ぶと簡単に50-60万円になる。
そしてホイール。これはいわゆるカーボンホイールというやつで、全面を覆ったディスクホイールとなると、1つ20万円以上する事になる。ひとつだ。
これであっという間に100万円以上バイクの出来上がり。

スイムのウェットもピンキリで、採寸したオーダーメードは10万近くかかる。
ランやバイク中のウェアも、チームで揃えると普通のウェアの何倍もする値段になる。
そしてそれらを積む車も必要になるし、キャリアやメンテセットもばかにならない(年に一回は行うオーバーホールもお店によっては5万円くらいかかる)。

しかも大会を行う場所は、素敵なリゾート地が多い。
国内であれば、南紀白浜や九州宮崎。沖縄の宮古島や離島、長崎五島に有名な大会がある。そして、新潟佐渡や鳥取皆生など、とにかく行きづらかったり、高級な所が多い。

そして海外大会では、屈指のリゾート地、タイのプーケットだったり、フィリピン・セブ、マレーシア・ランカウイなど。
もちろん、ハワイのコナや、オーストラリアのメルボルン、ケアンズなど観光にうってつけの所も多い。
大抵はそこの最も高級なホテルがメイン会場になるので、みんなそこに泊まる。
シャングリラやハイアットが常宿になる。

そこに輪をかけて、大会エントリーフィーが高い。
普通の国内大会オリンピック・ディスタンスで2万円前後、ハーフ・アイアンマンで4,5万円、フルのアイアンマンだと8万円以上かかる。

こんな大会に夏のシーズンに毎月のように出ると、一シーズン大会と遠征だけで数十万~100万円近く掛かる事になる。
しかも家族も連れて行く事になると、その2、3倍。

そのセレブ感と、ある程度スピードをお金で買えるところに、ハラダははまった。

残り72日 – そう、スピードは金で買える

そうスピードはお金で買える

この表はカナダの博士が風洞実験で40km走ったら何秒短縮できるか測ったもの。
スピードスーツ (NikeSwift 約3万円): 134秒
エアロバーとポジション (Vision 約5万円): 122秒
エアロヘルメット (OGK Kabuto 約4万円): 67秒
カーボンホイール (Zipp 前6万円、後10万円): 52秒
エアロバイクフレーム (cervelo 約30万円): 17秒

つまり前述のスターターキット10万円のバイクで、40kmを平均27km/hで1時間29分のところ、上記を全部追加すると、58万円プラスで6分ちょっとの短縮で、計算上1時間23分になる。(1分当り10万円だ。)
これは、トライアスロンなどをやらない人にしてみたら、たかが自転車にそこまでお金かける(特に17秒しか縮まらないフレームは最底30万で、上は100万以上…)なんてバカな事してると思うだろう。

ただお金はある。まずはお金をつぎ込み、そして肉体を鍛え上げる。彼にトライアスロンは合っていたのだ。

残り70日 – ドンペリを賭けた戦いが始まった

ドンペリを賭けた戦い

そして先ほどのストーリーにあった、シンジとは前職での、上司、部下の関係だった。

その二人でアイアンマン・ケアンズに出て、どっちが早いか勝負しようという事になった。

負けた方が、買った方に、最高級シャンパン、ドンペリのピンクを振舞う、というものだ。

歳は、ハラダが50代、シンジが30代後半であるから、10歳以上の差がある。

ただ昔上司だったわけで負ける訳にはいかない。

今は社長をやっているので、会社の人達にもアイアンマンになる、と宣言しているので、途中でやめるわけにはいかない。

そんなハラダが少ない時間を使って、トレーニングに励んだ。

はたして、前段のケアンズの相部屋でのドンペリはどちらのおごりだったのか。

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