Ohenro Ichigo Ichie

お遍路 一期一会

旅の中では様々人と出会う。この人との出会いが旅の全てかもしれない。

しかもその場限り、一期一会だ。だからこそ、感じる事もあるし、心に残る。

そんないくつかの出会いの話を。

激坂とオープンカー

ケンは白いサイクリングジャージを着て、白いスポーツバイクで、香川の山の激坂を登っていた。

そこに、グリーンのオープンカーに乗った60代の女性ドライバーが横に停まって、話しかけてきた。

「あなたすごいねー、この坂を自転車で!私も昔ならできたんだけど」とおもむろに話しだす。

「私5年前に乳がんで余命宣告を受けて、もうダメかと思ったんだけど、必死にがんと闘って、やっと車に乗れるくらいに回復した。」

「それで思い立って、大阪からこのオープンカーでお遍路してるんだけど、元気ならあなたのように自転車か歩いてやるんだけど。」

「とにかく健康は本当に大事。体に気をつけて。あなたから元気もらった。ありがとう!」と最後に本当にアメをくれて去っていった。

激坂に心折れかけていたところ、あなたからなんか元気もらいましたよ、こちらこそありがとう!

戦争と宗教

ケンはお寺の宿坊に泊まり、住職から朝の説法を受けていた。

参加者はその晩山寺に泊まった、台湾からの女性4人、65歳の男性一人旅、そしてケンだ。

お坊さんが般若信教を唱える。参加者がそれに続く。台湾からの旅行者4人は般若信教に覚えがあるのか、高らかに唱える。

お坊さんが説法を始める。

「宗教は平和のためにある」「ロシアでは宗教が戦争の後押しをしている」「ローマ法王がアメリカ人になったのに、一言も平和について発していない」

「政権とか一つの神様につくのではなく、人と人が殺し合わない、そう言うことを宗教は発していくべきだ」「台湾からの方々も心配していると思う」

「四国の寺は、神仏が合体している」「神も仏も関係なく、四国の神社仏閣を巡ることにより、平和について考えて欲しい」。

朝の静かな境内で、平和について考える清らかな時間となった。

山寺とトライアスロン

ケンは白いサイクリングジャージを着て、白いスポーツバイクに乗って激坂を登っている。

夕方から降り始めた寂しい雨の中、真っ暗な山道を、その日最後の山寺「仙遊寺」を目指している。

こんな真っ暗な寂しい山道の先に人がいるんだろうか。本当に山寺があって、そこに止めてくれるんだろうか。不安になる。

狸や狐が出て、ばかされてもおかしくない。人っこ一人いない寂しい山道だ。

雨が降る、苦しい、もうやめたい、そう思った時だった。

暗がりの中、ぼうっと如来の石像が姿を現す。山門も見えてきた。ああ、ここにも人の痕跡がある。人間ってすごいな、こんな山奥に仏様があり、何か見守ってくれている。

やっとの思いで、暗い山道を登りきり、仙遊寺に着く。

その宿坊に向かうと、宿のおかみさんが出てきてくれる。

まあ大変だったでしょう、服を乾かして、シューズドライヤーもありますからね。

本当に人のありがたさ、親切が身に沁みた。

あら、あなた、ホノルルのトライアスロンに出たの?私もよ、と僕のジャージを見て、おかみさんが言う。なんとおかみさんは若き日トライアスロンをやっていて、ホノルルのトライアスロンにも出たのだと言う。

なんて、人の輪はつながる、面白い出会いだった。