Jerusalem

イスラエルとエルサレム

ウェストバンク(ヨルダン川西岸)の橋を渡った後、バスに乗り換えてイスラエル内を西に向かう。

僕らは、ダマスカスからアンマン、ウェストバンクの橋を渡って、約束された地イスラエルにやって来た。

地図を見ると分かるが、ウェストバンクは結構広く、しかもこの国境線は今も曖昧なままだ(地図中点線部分)。エルサレムはそのギリギリ端にある。

ここに何があるんだろう。

そもそも僕は、この旅に出るまで宗教について特に興味はなかった。キリスト教はヨーロッパが中心なイメージだが、そのイエス・キリストが中東で生まれたなんて知らなかった。そこにあるエルサレムという街が、なぜキリスト教とイスラム教とユダヤ教の聖地で、いつもそこを巡って争っているんだろう。

それを全然知らないままこの地を踏んでみると、そこは今も2,000年前も変わらず、極端に乾燥した自然が厳しい所だ。白い痩せた土地が広がり、大地溝帯の北端にあたる為標高が低い、水も少ない。そのどうしようもない自然環境の中でも、昔から人間は相も変わらず帝国や植民地を広げる為に争ってきた。そんな環境だからこそ、人間は生きる為のよりどころが必要で、故に世界3大宗教が生まれたんじゃないかと思う。

そしてその地に現代の歴史が積み重なっていく。

イスラエルに入ったら、2,000年前のイエス・キリストの足跡を辿る為、彼が生まれた街ベツレヘムに行く事にする。ここは完全にウェストバンクの中で、途中何度もパスポートチェックを受けなければ通れなかった。

イスラエル国 (人口1,000万人、面積2.2万km2 日本の6%程)

キリストが生まれた ベツレヘム 聖生誕教会

クリスマスのシーンは、キリストが馬小屋で生まれたのが描かれるが、どうやら思い描くのとは違って、そこは洞窟のような所に馬を引き留めておく場所だったそうだ。

マリアが産気付いた時、近くの宿屋で断られ、そこで馬を繋いでいた洞窟に匿わせてもらったというような事らしい。

その場所にある聖生誕教会は、確かに崖近くの洞窟がありそうな所に建っている。入り口は小さいが、中に入ってみると白く豪華な教会だった。なんとなく粗末な馬小屋を想像していたので、イメージとだいぶ違った。

教会内に入って、薄暗い所から地下への階段を下って、更に暗い一角にそれはあった。星型の部分が、キリストが生まれた場所、いわゆる馬小屋の飼い葉桶があった所だそうな。

キリストが生まれた聖生誕教会、結構豪華

その上には星の装飾があり、東方の三博士が星に導かれてやってきたのを表している。なんとなく厳かな感じはするし、周りにいる(キリスト教徒であろう)方々は神妙な顔をされているので、ちょっと襟を正したくなる。

ただそれくらいの感想で、ベツレヘムを去り、ついにエルサレムに入城する

3つの聖なる場所エルサレム

エルサレムは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教全ての聖地と呼ばれる。

3つの宗教共通の聖地なのは、(僕はこの時まで知らなかったが)ユダヤ、キリスト、イスラムの神様は同一で、唯一絶対の一神教なのが所以だ。この中で最も古いユダヤ教の旧約聖書には、ここエルサレムを含むカナーンの地が、約束された場所になっている。

宗教開祖神、聖典聖地その他有名人
ユダヤ教アブラハム/モーゼ(紀元前1300年頃)唯一神ヤハウェ
旧約聖書(アダムとイブの創世記から始まる)
エルサレム・嘆きの壁
シナイ半島・モーゼ山
アダムとイブ、モーゼの十戒、ノアの方舟
キリスト教イエス・キリスト(紀元前4年?)唯一神God(全部同じ神様)
新約聖書(旧約聖書の内容を引き継いでイエスの生涯)
エルサレム・聖墳墓教会(ゴルゴダの丘)
ナザレ聖誕生教会
洗礼者ヨセフ、聖人ペテロ、裏切り者ユダ、聖母マリア
イスラム教ムハンマド(紀元571年)唯一神アッラー(全部同じ神様)
コーラン(新旧約聖書を引き継いでエイブラハムやモーセ、イエスも出てくる)
エルサレム・岩のドーム
ダマスカス・ウマイヤド・モスク
カリフ・ワリード(ダマスカス攻略)
スルタン・アフメット2世(イスタンブール攻略)

これらの宗教では神様は同じであるし、その系譜も全て繋がっている。アダムとイブから始まる人間の祖先から、ノアやアブラハム、そこからキリスト教のイエス・キリスト、イスラム教のムハンマドまで全部繋がっているのだ。

そして紀元前10世紀頃ユダヤ教のソロモン王がここに神殿を建てた。簡単に言えば、同じ神様を祀った神殿がエルサレムにあるので、ここが3つの宗教の聖地となったのだ。

エルサレムは古代より城壁に囲まれ、その内側1km四方の狭い旧市街の中に様々な歴史が詰まっている。

城壁から中に入る為、一番大きいダマスコ門(そう、僕らが来たダマスカスの方向を向いている)から旧市街に入城する、まさに城の中に入る感じだ。

ダマスカスからの旅人を迎えるダマスコ門

この中に、ゴルゴダの丘と、嘆きの壁と、神殿の丘と、岩のドームが同居するのだ。

僕らは旧市街の端の方まで歩き、ヤッフォ門近くの粗末なドミトリーを見つけ、そこに宿を構えた。

城壁で囲まれたエルサレム旧市街は、東京ディズニーランドとシーを足したくらいの面積で、各宗教毎に住む所が区分けされている。ダマスカス門に近い所からイスラム教区、キリスト教区、ユダヤ教区、アルメリア教区となっている。

城壁の門は全部で8つある。ヘロデ門、ダマスコ門、ヤッフォ門、シオン門、ライオン門、糞門、新門と続き、メシアの再来まで開かずの扉、黄金門だ。それぞれに伝説がある。

シオン門、上に菊の御紋のような紋章が見える

ここから、3つの宗教の聖地を順に巡ってみよう!

ヤッフォ門から迷路のようなエルサレム市街を歩き、突然広場のような開かれた場所に出る。そこが、嘆きの壁(西の壁)だ。

この壁(嘆きの壁)の上が神殿の丘で、今は岩のドームが建っている

ユダヤ教の聖地: 嘆きの壁

壁自身は、石が積み重なったただの高い石垣のようだ。だが、周りにいるユダヤ教徒の人たちの、この壁に向かって一心不乱に祈る姿を見ると、そのオーラに圧倒されなかなか近づけない。

キッパという黒い被り物を壁手前で借りて、恐る恐る壁に近づくと、みんな壁にお札や紙などを挟んでいる。日本でいうお賽銭とか御神籤のようなものか。

この壁の上の丘に、元々はユダヤの神殿があった。それに向かって、真っ黒な服のユダヤ人達が、壁にキスしたり、頭を擦り付けんばかりに祈っている。その姿に圧倒され、異教徒は写真を撮ったり、紙を挟んだりできない雰囲気だ。

なんだか知らないけどすごい。

僕はここで初めて正統派(オーソドックスまたはウルトラ・オーソドックス)なユダヤ人の人たちを見た。生まれた時から、もみあげを伸ばして長くカールさせ、黒い箱を頭につけるか、黒いシルクハットを被り、黒いスーツを着込む。この姿で壁に向かって祈るのだが、なぜなのか。
そもそもの始まりは紀元前10世紀に、ソロモン王がモーセの十戒の契約の箱を納めた、唯一の神ヤハウェの神殿をエルサレムの丘に建てた。その後、紀元前5世紀ユダ王により攻略され、バビロン(今のイラク・バグダットの南の古代都市)に強制移住させられる。そのバビロン捕囚・解放を経て、戻ってきたユダヤ人たちが、第二神殿として再建した。その後今度はローマ帝国によりエルサレムは攻略、神殿は壊され、ユダヤ人達は離散する。その時の神殿の跡地の壁が、今の嘆きの壁だ。その時の神殿の崩壊、離散を嘆き、忘れないようにして、今もユダヤの人たちはこの壁に祈りを捧げるのだ。
ここが神殿の丘(Temple Hill)と呼ばれるので、その契約の箱を守っていたという兵士達を、テンプル騎士団と呼んだらしい。その伝説は前のペトラ遺跡の所でも出て来た。

イスラム教の聖地: 嘆きの壁の上 金色に光る岩のドーム

そして、その神殿の跡地に建っているのは、なんとイスラムの黄金の岩のドームだ。これはイスラム教の始祖ムハンマドが、この神殿の(十戒の契約の箱が置かれた)岩から昇天したのに由来している。

これはイスラム教管理下だが、あくまで神聖な岩 (Foundation Stone) を祀った黄金のドームで、イスラム教の礼拝所ではないそうだ。ただこの神殿の丘にあるアル・アクサ・モスクを含め、イスラム教のメッカに次ぐ聖地とされている。

美しいイスラム建設の岩のドーム、神聖な岩の上に建てられているという

そして、そこからほど近く、イエス・キリストが十字架を背負ってゴルゴダの丘まで行った道、ヴィア・ドロローサがある。

キリスト教の聖地:ゴルゴダの丘に至る道ヴィア・ドロローサ

ヴィア・ドロローサは苦難の道、という意味で、キリスト最後の13日の金曜日(諸説ある)をたどる道だ。旧市街の中に、IからXIVまでの14個の駅(Station)があって、キリストが十字架を背負って歩いた時に起こった事がこと細かに残されている。

最後の晩餐の部屋: キリストが13人の使徒達と最後のディナーをとった言われる部屋は、シオン門近くの丘のダビデ王の墓の上にある。ダビンチの絵画に描かれる所よりも暗い感じもするが、当時はもうちょっと見晴らしが良かったんでしょう。

薄暗い最後の晩餐が行われたという部屋

Via Dolorosa Stations I – XIV

ヴィア・ドロローサの1始まり

I: キリストが裁判を受けた場所(提督ピラトの館近く)

II: 十字架を背負わされ、ピラトがこの人を見よ(エッケ・ホモ)と言った場所

III: 十字架を背負ったまま、1度目にこけた場所

IV: キリストが歩いて聖母マリアにあった所

V: シモンが十字架を肩代わりしてあげた場所

VI: キリストの顔を拭った布にその顔が写った場所、ヴェロニカとも呼ばれる

VII: 2度目にコケた場所

VIII: 婦人達に慰められた所

IX: 3度目に転けた場所

X – XIV: 聖墳墓教会の中。服を脱がされ(X)、十字架に架けられ(XI)、息を引き取る(XII)。その後マリアが亡骸を受け取り(XIII)、墓を作った場所(XIV、この聖墳墓教会)。

ゲッセマネの丘: キリストが、磔にされる運命を見通して、迷いながら歩いたオリーブ畑が広がる丘からの眺め。

ゲッセマネの丘から眺める景色

キリストが歩いた道
ハンカチにキリストの顔が映ったという
ゴルゴダの丘に立つ聖墳墓教会の中

エルサレム旧市街の日常

一通りの聖地を見てまわって、そこにいる人々のオーラに気圧され、正直疲れた。宿に帰って、イスラエル式の夕食をとろう!とするも、エルサレム旧市街は物価が高く、レストランに入れない。しかも夜は18時くらいにお店が閉まっちゃう。

しょうがないので、ドミトリーの共同キッチンで、イスラエル風チキンのパスタを作る。ユダヤの人々は食べ物の戒律が厳しく、特別な殺し方をしたコッシャーと呼ばれる食物しか摂らない。その食材を買ってきてナオトと二人で調理する。塩胡椒がなかったので少し味気ないが、疲れた体が元気になる。ビールでも飲みたい所だが、宗教のいろんな制約でなかなか飲む雰囲気でもない。

エルサレムの狭い旧市街に3日程滞在したが、歩けば歩くほど興味深く、またそこにいる各宗派の人々の真剣な顔を見ると、無宗派な僕も胸がいっぱいになる。何故かここの1km四方に世界の重力が集中している気がする。

2023年10月、パレスチナのガザ地区でハマスとイスラエル軍との間で大規模な戦闘が起きている。

そんなガザとはどんな所なのか。なぜパレスチナの人たちとイスラエルが争っているのか。その地理と歴史を少しだけ巡ってみる。

天井のない監獄?

ガザ地区は、東西に10km、南北に40kmで、東京23区の半分くらいの大きさだ。そこに200万人が暮らす、かなり密集された土地だ。(実際、世田谷区、大田区、杉並区、練馬区を合わせた面積と同じくらいの人数が住んでいる)

2007年にイスラエルがガザ地区の周りに壁を建設し始め、水や食料、電気なども制限され、天井のない監獄と呼ばれている。

この紛争は最近始まったのか?

ガザの歴史は非常に古く3,000年程前から人が定住していたとの事。旧約聖書にも出てくるペリシテ人の地パレスチナと呼ばれていた。ペリシテ人は紀元前12世紀頃海を渡ってこの土地に渡ってきて、地中海岸のガザなど5つの都市ペンタポリスを拠点とした街を築いていた。

そこにヘブライ人(ユダヤ人)のダビデ王があらわれ、ペリシア人と戦った。

この時有名なのが、ペリシアの巨人ゴリアテとダビデの戦いだ。

ゴリアテは、身長3mの正に巨人で、鉄兜と巨大な槍を持った恐ろしい敵。

ここでダビデは、石つぶてをゴリアテの額に当てて昏睡させ、その槍でゴリアテの首を取る。

これによりダビデの軍隊は、ペリシア軍を破り、このパレスチナの地にヘブライ王国(ユダヤ人の国)を築くに至った。

その後も、パレスチナの人たち(今ではイスラム教徒)は、ガザやヨルダン川西岸などに広く定住していた。そして第一次世界大戦の際、この地を植民地としていたイギリスの三昧舌外交により、イスラエルが建国されると、今のような暫定的な自治区となってしまった。

本当に世界で一番貧しい?

今のパレスチナ自治区とガザの経済状況を見てみる。イスラエルの人の平均所得が800万程度の所、ヨルダン川西岸では60万円、ガザでは年収30万円程度。しかも失業率は50%にものぼる。

イスラエル内に100万人以上いると言われるパレスチナ難民には、一人年間15万円程をカタールが支給しているという。またパレスチナ・ガザ地区の政府職員も5万人程度いて、この人たちにもカタールからの援助で100万円程度が支払われ、政府が維持されている。

この旅では、ローマからエルサレムを目指して来て、遂にここにいるけど、旅すればするほど興味と謎が深まるばかり。キリストが歩んだ道はなぞってみましたが、その源流になっている、旧約聖書の世界をもう少し探究してみたい。

キリストが磔刑に処せられる前に歩いたゲッセマネの丘からエルサレムを望む

その為に、エルサレムを出てより古い旧約聖書の世界、南の塩の海(死海)に向かう事にする。


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Ken YOSHIDA 𠮷田 顕一 Ktrips代表

世界50カ国以上を旅し、時々旅行記を書いています。それ以外にもトライアスロン・レース、メイカー・フェア(モノ作り展示会)で世界中を回る。AmazonでKindleとペーパーバック書籍を出版 https://amzn.to/3VHiOGj