100 Days to Ironman Bike

残り24日 – Transition

Bike Transition

スイムからバイクへのトランジッション・エリアは、ウェット・スーツを脱いで着替えるのがメインだ。

時間を短縮するために、ボランティアの人が、ウェット・スーツを脱ぐのを手伝ってくれる。みんな気後れせず、全裸になって、あっという間に着替える。

その後、サンスクリーンはいるか?水はいるか?と、いろいろ世話を焼いてくれる。三スクリーンを塗って、というと顔中、体中真っ白になるくらい塗ってくれて、目が痛くなるほどだ。

そんなトランジッションでも、シンジとハラダは競っている。

ハラダは、トランジッションに時間をかけないたちなので、早々とバイクの準備を済ませ、シンジに「バイクで勝負だ!」と声をかけて、足早に出ていく。

つくづく、勝負好きだな、と頭をかき、それでもゆっくり、スイムで使ったカロリーを取り戻すべく、クリフバー(ピーナッツ味)、豆乳のゴールデンコンビを流し込む。

これはイオの計算のもと一番炭水化物、たんぱく質、糖質が取れる組合せだ。しかもウマい。

あとは、この時の為にとっておいた、梅おにぎりに食らいつく。塩分とクエン酸が身体を癒す。

エナジージェルと、カフェイン入りバーも口に突っ込む。これ全部で1,000kcalほどだ。少し多すぎに感じるかもしれないが、スイムの3.8kmで約2~3,000kcalを消費している。まだまだ足りないくらいだが、体は一度にそんなにカロリーを吸収できない。

予定通りのトランジッション・プランで、イオはその後のバイク・パートに移る。

アイアンマンの中で最も長く、時間のかかるバイク180kmのスタートになる。

残り22日 – Bike 30 km

マツイは秘密兵器を用意していた。

五番目にトランジッションに入った彼は、着替えやカロリー回復はそこそこに、彼の新しいガジェットを自転車に付けていた。

それは、彼が自分で開発したの「イマドコLED」はバイクに設置する。自分を含め6人のライダーがどこを通り過ぎたか、LEDが光る事により、一目で分かるようになっていた。

各人バイクの中には緊急のために携帯を入れているが、そのGPSをトラックしているのだ。

そのメーターによれば、今1位はノリコ。30km地点を通過した。ノリコはスイムが速かったため、まだ女子トップ選手について行っている感じだ、すごい。

2位グループはハラダとシンジ、20km地点を過ぎている。二人はドンペリをかけて競っているので、負けられない闘いだ。

その後ろをマツイが追う。自分より10分ほど先に出ているが、あまり進んでないな。調子が悪いのかな。とにかく、まずはマツイを目指そうと、マツイがバイクをスタートする。

バイクのコースは、スイム会場のパーム・コーヴから北上し、港町ポートダクラスまで海沿いの気持ちいいキャプテンクック・ハイウェイを行く。

そこまで40km余りを2周回150kmほど走ってパーム・コーヴまで戻り、その後ケアンズシティまで帰ってくる、全180kmの道のり。

気が遠くなるが、楽しんで行こう、とマツイは気合を入れる。

残り20日 – Bike 60 km

Bike 60 km

そして、マツイは視野狭窄に陥っていた。

マツイは、イオの計測通り、まだ5km地点にいた。彼の体に問題が起きていたのだ。

おそらくマツイは血糖値に関して若干の問題があるようだ。空腹(低血糖)状態から、多くのカロリーを一気に摂取すると、血糖値を下げようとする作用が急に働いて(インシュリンが過剰に分泌されて)、結果再度低血糖になり過ぎるという問題を抱えているようだ。(これは普通の人にもある事だが、マツイの場合はこれが急激に起きすぎる。)

トランジッションでは、そんなに食べ過ぎたとも思えないが、急激な糖分の吸収が仇となったのかもしれない。

簡単に言えば、このバイクパート前半で、徐々に視野狭窄になり、視界の周りに白いもやがかかってくる。

眠くないのに、寝ているような感覚に陥る。

これが時速50、60kmを出している自転車上で起きるのだから、問題だ。というより、命に関わる。

結果、バイクパートの最初のアップダウンで、下りで稼げるところを、ブレーキをかけて、速度を落としながら進まざるを得なくなった。

走っている最中も、これヤバイ、でも前にいかなきゃ、でももし海に落ちたら終わりだし、でも飛ばしたい、みたいな変な感覚だ。

低血糖状態で意識朦朧としたまま最初の10kmのアップダウンを行く。

少し何かジェルなどを飲むと意識が戻って来る。

だましだまし、最初のエイド20kmくらいのところまで行く。

20kmの最初のエイドで、冷たい水、バナナなどを受け取る。

このバイクパートのエイドは、ボランティアの人が走って渡してくれるので、楽しい。

この冷水を頭からかぶって、バナナを食べたら、マツイの調子はだいぶ良くなってきた。

よし最初の遅れをとり戻すべく、飛ばそう!

マツイの真っ赤なヘルメットがよほど目立つのか、向かいからくるエリート(プロのバイクの速い人たち)が面白そうに視線をこちらにやる。

そうか、速い人はもうポートダグラスから折り返してきているのか。

その速いバイクの一群の中に、ノリコを見つける。ハヤい!さすがだ。

残り18日 – Bike 90 km

Bike 90 km

そして、ノリコはバイクの上で泣いていた。

ノリコは、バイクが得意な方ではない。ただこの日の為にかなりの時間をかけ、バイクを練習してきた。

小柄のノリコに、バイクのサイズが合ってないと言われれば、特注のベストサイズのバイクを作らせたり、坂道の練習が効果的だと言われれば、関東屈指の坂の名所ヤビツ峠を何回も踏破してみた。

しかし、スイムの後もトップ集団に付いていったのだが、さすがオーストラリア人達はバイクが早い。

しかも、海岸沿いは風が強い。彼女は、行きは向かい風だったのだから、折り返し地点以降は追い風だろうと思っていたが、なぜかまた向かい風に感じる。戻りは、少し上り坂なせいもあるだろう、全然ペースが上がらず、女子トップ集団からズルズル下がっていった。

バイクは体格とパワーがものをいうのでしょうがないのだが、ノリコはなぜか泣けてきた。

自転車競技では、ドラフティングという前の自転車の後ろについて、空気抵抗を少なくするような走り方は禁止されているのだが、トップ集団の中にいると自然とそのペースについていける。

ただそんなグループでの走りも、その速さについていけず、もう限界。

バイクの上で泣くのだが、それでサングラスが濡れて前が見えづらい。

そんなときも、シンジ、ハラダや、今マツイとすれ違うと、元気をもらえた。よし、みんなで頑張ろうと。

その後とにかく北上し、ポートダグラスを目指す。海沿いの道が気持ちいい。景色をみる余裕も出てきた。

ポートダグラスの街はなかなかオシャレな感じで、時間があったらここでゆっくりするのもいいかなあ、という事を考えながら、最初の40kmの折り返し地点を過ぎる。

この後南下するも、聞いていた通り、南東からの向かい風がきつい!

行きは感じなかった風が自転車を煽り、海沿いの登りがつらい。

自分の時だけ向かい風が吹いているんじゃないかと思うくらい、南下はきつかった。

その後アップダウンを繰り返し、パーム・コーヴ付近の折り返しで、再度北上する。

残り16日 – Bike 120 km

Bike 120 km

そして、シンジは倒れていた。

シンジが折り返し地点のポートダグラスを過ぎた辺りで、雨が降ってきた。

ケアンズは天気がコロコロ変わる。ちょっと走っただけで、雨雲を抜け、海沿いはまた晴れてきた。

その先の坂での出来事だった。

ダンシング(立ち漕ぎ)をしようと、脚を伸ばした瞬間、脚がピキッという音と共に曲がらなくなった。しかも両足。

ダンシングしようにも曲がらない脚ではバランスを保てない。

もう90km漕いだ後なので、何か受け身をとる気力も体力もなくなっていた。

そのまま地面にバイクごと倒れて、下敷きになる。それでも脚は動かない。

その真後ろを走っていたオーストラリア人がすかさず止まって、助けてくれる。

どうしたんだ?だいじょうぶか?

“No Problem”とは言えない。

「(つっていた)足を曲げて!」というつもりが、”Stretch my legs!” (足を伸ばして!) と言ってしまう。もともと伸びている脚をどうすればいいのか、そのオージーはわからなかったのかもしれない。???な顔のまま、何をして欲しいんだ、マーシャル(救護員)を呼ぶか?と色々ヘルプしてくれる。

そんな時、ハラダが通った。「おい、シンジどうした?」

「脚がつっちゃいました!曲げて下さい!」とシンジが頼む。

更にマツイも来たので、三人がかりでシンジの足を何度か曲げ、動かしてやる。

そのたびに激痛が走るが、何もしなかったら、ここでリタイヤは必至だ。

なんとか脚が動くようになって、その三人に礼を言い、先にいってもらう。

ハラダとマツイは心配そうに、シンジを見るが、彼らもそんなに余裕はない。残りの90kmの道を急ぐ。

その後、バイクに乗るも、脚は動かない。

この日の為に〇十万してつぎ込んだ真っ白のバイクが泣く。

これまでの練習はなんだったんだ!

俺はこんな惨めなバイク漕ぐためにあのトレーニングしてきたんじゃねー!

と、空に向かって日本語で叫ぶも、それはむなしくケアンズの風にかき消されていった。

残り16日 – Bike 150 km

Bike 150 km

そして、ケンは抜き去っていた。

シンジがそんなことになっているとは知らず、二度目のポートダグラス120km付近で、シンジに会う。

ずっと前を走っているはずが、どうしたの?と聞くと、両脚がつって倒れて大変なことになっていた、という。

「がんばれ!みんなでアイアンマンになろう!」と声をかけて、抜いていく。

そして、140km付近で、マツイ、その後、ハラダと会う。

二人ともかなりキツそうだ。

逆に自分は最初遅かったタメがあるのか調子いい。

頑張りましょう!と声をかけ、とにかく漕ぐ。

そして二度目のパーム・コーヴを過ぎて、150km付近でノリコに会う。

え、あんなに先に行っていたのに大丈夫?と声をかけるも、140kmで脚がおわっちゃったよー、と明るく応えてくれた。どーせランで抜かれるから、後であおーと言って、先を行く。

ただケンもこの前後、トラブル続き。

100km過ぎくらいから、前のバーに付いているシフトワイヤー(後ギアを変えるケーブル)が切れ始める。

最初、シフトを変えようとしたら、イタっと一本切れたワイヤが指に刺さる。その後、2本、3本と切れてくる。

全部切れてしまうと最後に止まったギアから変えられなくなるので、真ん中辺のギアで漕ぎ続ける。一番重い所で切れてしまって、坂道を登りきれなくなるのを避けるためだ。

その後150km過ぎで、タイムトライアル(TT)ポジションを取る時の、肘当てのクッションが一つ飛んで行ってしまう。

トライアスロンのほとんどの姿勢はTTポジションなので、片っぽだけ肘を乗せて、パットが無い右側はハンドルを掴むという、情けなくも遅そうな姿勢。

まあ後数10キロ耐えるしか無い。

そして色々ありながらも、ケアンズの街に戻って来る。観客の数が桁違い。

時間は4時頃だが、盛り上がりは最高潮。

残り14日 – Bike 180 km Goal

Bike goal

そのままの勢いで180km Bikeを終える。

アイアンマン180KMのバイクの結果は

マツイは6時間20分で最初に180kmを終えた。

次は僕がバイク単独としては最短6時間10分で、最初のスイムの遅れを挽回して2番手まで上がってきた。

そして、ハラダが三番、ノリコは四番手まで下げてしまった。果たしてシンジは、、、