ミラクル

世界がクロスするところ

逃 

ひとりが叫んだ。POLICEから走って逃げるのは初めてだった。

では走っていた。しかしもう始めの一歩で、足は砂漠の砂に取られていた。見上げるばかりの大ピラミッドをよじ登って、そして下りたのが足にきてただろうか。 ”このままじゃ、ころぶ。ころんだら、つかまる。でも足は言うことを聞かない。こけたら痛いだろうな。受け身をとろうか。もしかしたら、また立ち上がって走ったら逃げ切れるかも。ここでつかまったら情けない...” すべてがスローモーに流れていく。体が地面とぶつかるまで、異様に長く感じられた。頭だけは回っていた。

はり、こけた。派手にこけた。できる限り素早く立ち上がった。しかし、私の体にPOLICEの手がかかっていない。 ”これなら逃げ切れる” 一度も振り返らずに走った。行きに登った崖まで走れば、逃げ切れる。崖までつっこんだ。あまりの勢いで崖を下ったので、またこけそうになった。この崖はゴミ捨て場になっている。ガラスの破片が散乱していて、ここでころんだら大変なことになる。目の前に仲間が走っている。ぶつかって、2人で転げそうになる。ここまで来て初めて、仲間も逃げ切っていたのがわかった。

に自慢できる話ではない。私たち8人の日本人はクフ王の大ピラミッドの頂上で御来光を見ようと、深夜3時に宿を出てTAXIでギザまで行った。ピラミッドは高さ146m、もちろん登頂は禁止されている。遠くから眺めると、漆黒の闇に更に黒く浮かび上がるピラミッドはあまりにもでかく、あれが5000年前につくられたとはとうてい思えない。

合法登頂ルートは情報ノートで確認した本来の入り口の反対側。ゴルフ場をぬけ、ゴミ捨て場の崖をよじ登り、POLICEの詰め所から死角になるところからピラミッドに近づいた。ピラミッドの下部はほとんど崩れかかっている。どこから登りはじめるかが重要なポイントになる。もちろん手をかけた部分が崩れて落ちたら、死はまぬがれない。情報ノートによると四隅の角が一番状態がよく登りやすいとのこと。しかし角まで行ってから登ると、POLICEの詰め所から丸見えで発見される可能性大だ。結局一辺の真ん中辺から登りはじめ、徐々に角の方に移動することにする。

けた足場が崩れたり、手をかけるところがなかったりと、真ん中辺はかなりつらい。石の大きさは一辺が1mくらい。慎重に足場を確認しないと本当に危ない。10段くらい登って、下を見ると足がすくみそうになる。上を見上げると頂上はどこだかわからない。とにかく必死に登るしかない。 崩れそうなつらい部分を15分もよじ登っただろうか。突如、足場がよくなる。ピラミッドの角の方に移動していくと、更に足場がよくなり、階段状になっている。これはもらった。あとはでかい階段をのぼる要領で上を目指す。 そして、とうとう上に避雷針のようなものが見えた。あれが頂上だ。急いでかけ登る。

上は以外と広い。20畳くらいはあるだろうか。他の仲間が2人、一足先に到着している。登っている最中はごく近くにいる人しか見えなかったから、少し不安だった。 とにかくやったぜ、とにかく眺めは最高だ。砂漠の中にあるのは、我々が登ったクフ王のピラミッドとカウラー、メンカウラー王の計3つのピラミッド、そしてそれを守るスフィンクス。今いるピラミッドの影が異様にでかい。よくこんなもの登ったな。東の方角にはカイロの街の夜景が広がる。 そして寒い。みんなで膝を寄せあい、やったね、とか話す。 7人まで上ってきて、一人だけいた女の子が来ない。彼女は落ちてしまったのだろうか、途中で怖くなって動けなくなってしまったのだろうか。とにかく周りに人気はない。

6:00amくらいになり、街からコーランが流れてくる。もうすぐ日の出だ。空が漆黒から薄桃色、だいだい色、朱色と染まってくる。 そして朝日。145mの吹きさらしの中で待っていた身には、まさに命の太陽だ。神々しいほど輝き。5000年前の人たちがこの太陽をあがめていたのも、まったく同感である。 みんなで記念写真をパチリ。この写真送ってね、めがねくん。 さあ下りるとしようか。

「おりてこい!」と下で怒鳴っている。やっぱりPOLICEに気づかれていた。そして僕らは5人のPOLICEに囲まれ、詰め所まで連行されているところだった。その後は.... 最初に話したよね。